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シンボルとしてのケシ

ケシ アイキャッチ 植物

ケシ属の花は100種ほどあり春から夏にかけて色鮮やかで美しい花が咲くため、切花やガーデニング用で人気があります。しかし、ケシのなかには観賞用ではなく薬用植物として紀元前から人々に利用されてきたものもあります。神話やシンボルとして描かれているものは薬用植物としてのケシの側面が強調されているようです。今回はギリシア神話を中心にケシとシンボルの関係を見ていきます。

ケシの特徴

学名Papaver somniferum
分類ケシ科ケシ属
原産地小アジア、アルメニア、イラン、インド
草丈100cm-200cm
開花期4月-7月
花色赤、紫、白
ケシの実 画像

ケシというと「アヘン」が頭をよぎる人もいるかもしれません。しかし、すべてのケシが毒性を持っているわけではなく、毒性を持っているのは麻薬の材料となるソムニフェルム種とセティゲルム種のみです。この2種からは麻薬である「アヘン」や「ヘロイン」、医療品である「モルヒネ」が作られます。

同じケシ科でも「オニゲシ」や「ヒメゲシ」の名前で流通するオリエンタルポピーや「ヒナゲシ」の名前で流通するシャーレポピーなどは毒を持っていません。

ケシとギリシア神話

ケシの実の特性は紀元前から認知されていたようで、ギリシア神話のなかでもその効能が生かされた形でシンボルとして登場しています。

【慰め】【忘却】

ペルセポネの略奪 絵画
《ペルセポネの略奪(1631)》 レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)

豊穣の女神デルメルの娘ペルセポネが野原でスミレの花を摘んで遊んでいると、突然冥界の王ハデスが現れ、地下世界へとペルセポネを連れ去りました。

デルメルはさらわれた娘を探すために地下世界を歩き回りますが見つけることはできませんでした。女神は涙を流しながら神々に救いを求めました。神々は娘を取り返すことはできないが、せめて母親の苦しみと悲しみをやわらげてやるために、彼女が歩く道のかたわらにケシの花を咲かせてやりました。

デルメルが疲れきった身体を休めようとその足を止めたとき、ケシの花が目に止まりました。その花をもっとよく見ようと顔を近づけてその花の香りをかぐと、心地よい眠気に誘われていきました。花々の中に横たわったデルメルはさらにケシの実を口に含むと、涙に濡れたまぶたは重くなり、娘を失った悲しみも薄れてやすらかな眠りに落ちていきました。

※デルメル__オリンポス十二神の1人で農耕と豊穣、特に麦をつかさどる女神とされます。ゼウスの姉でクロノスとレアの子ども

【安眠】

《夜と眠りの神(1883)》 イーヴリン・ド・モーガン(1855-1919)

眠りの神ヒュプノス(ソプヌス)の宮殿は太陽の光が当たらない洞窟の中にあり、その入り口には無数のケシの花が咲いていました。ヒュプノスはケシの花の汁を集めておいて、夜が来るとそれを地上一面にまき散らしすべての生物に眠りをもたらしました。

イーヴリン・ド・モーガンの《夜と眠りの神》では夜の女神ニュクスが夜の帳(とばり)を下ろしながら息子であるヒュプノスの腕を引いて空を舞っています。ヒュプノスが左腕に抱えている鮮やかな赤い花はケシです。ケシの花を大地に振り撒いて生きとし生けるものに眠りをもたらします。

※ヒュプノス__夜の女神ニュクスと闇の神エレボスの子で、死の神タナトスの兄弟とされます。また息子は夢の神モルフェウス。

最後に

ケシは見た目こそ美しいもののその扱い方を一歩間違えれば人々を破滅に導く危険な植物でもありますが、適正に利用すれば今回紹介したシンボルのように人々に【安眠】や【慰め】を与えてくれます。「綺麗な花には棘がある」や「毒と薬は紙一重」という言葉をまさに体現するような花ですね。

参考図書

植物
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