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シンボルとしてのスイセン

スイセン アイキャッチ画像 植物

 スイセンはその姿や香りから清楚なイメージがありますが、一方でギリシャ神話や日本の説話の中では悲恋や死を象徴させる形で登場しています。今回は主にスイセンの特徴とギリシャ神話におけるスイセンの誕生した物語を紹介します。

スイセンの特徴

 スイセンは古くから品種改良が行われていて登録されているものだけでも1万種以上あるそうです。日本に自生するニホンズイセンは地中海沿いから中国に渡ったものと言われています。

切花で流通しているものは2種あります。

①ヨーロッパから渡来した1本に1輪花をつけるラッパズイセン系

ラッパスイセン

②小ぶりで房咲きのニホンズイセン系

ニホンスイセン

※房咲き_一つの花茎(ステム)に対してたくさんの花が房状に咲く性質

分類ヒガンバナ科スイセン属
原産地地中海沿岸・中国
草丈30-60cm
花径①2-3cm
②5-8cm
花持ち5-7日(切花)
流通時期①12-4月
②10-3月

ギリシャ神話とスイセン

 スイセンの別名はナルシスといいます。ギリシャ神話に登場する美しい少年ナルキッソスの物語から生まれています。また、ナルシシズムという一般的には「自己愛」「自己陶酔」の意味で用いられる概念もこのナルキッソスの物語が由来です。スイセンの花言葉の一つである「自己愛」も、この物語から来ているのでしょう。

美しい少年の誕生と不吉な予言

 ナルキッソスが生まれたとき、預言者テイレシアスに「もしこの子が生きながらえたいと思うなら、自分を見つめてはいけない」という不吉な予言を受けました。

ナルキッソスの姿はとても美しく、その姿に若い女性たちだけでなくニンフたちも夢中にさせました。

 しかし当のナルキッソス自身は彼女たちに見向きもせずに冷たくあしらっていました。

エコーの報われない恋

エコー タルボット・ヒューズ 絵画
エコー(1900) タルボット・ヒューズ(1869–1942)

 森に住むニンフのエコーもナルキッソスに激しく恋をしてしまい、その身を滅ぼしてしまった一人です。 

 エコーは美しい声の持ち主で、話もうまかったためゼウスは自分の浮気のために彼女を利用しました。エコーはゼウスの妻へラを引き留めるためにいろんな話をして楽しませましたが、ヘラはそれが夫ゼウスの策略であることに気づきます。

 怒ったヘラはエコーに「自分から最初に口をきくことは決してできないが、相手の話した言葉や物音は繰り返すことはできる」という罰を与えました。

 その罰のためにエコーはナルキッソスに恋をしてしまったときにも、想いを伝えようにも自分から話しかけることができず、ナルキッソスの話す言葉をそのままくり返すことしかできません。エコーのそうした事情を知らないナルキッソスは苛立ちと軽蔑の目を向けるだけでした。

 絶望したエコーは洞窟の奥深くに篭もったまましだいに痩せ衰えていきます。しだいに彼女の身体は消えていき、ついにはエコーの美しかった声だけが残りました。

 エコー(echo)は「こだま」や「山彦(やまびこ)」を意味しますが、その名前の由来にはこうした悲恋の神話がモチーフとなっています。

自分を愛してしまったナルキッソスの末路、そしてスイセンの誕生

ナルキッソス カラバッジョ 絵画
ナルキッソス(1597-1599) カラバッジョ(イタリア 1571-1610)

 ナルキッソスに相手にされず傷ついた数々の女性たちは女神ネメシスに自分たちの復讐をしてほしいと頼みました。

 ネメシスはテレイシアスの予言どおりにすることで彼女たちの願いを叶えることにしました。つまりナルキッソスに自分の姿を見せようとしたのです。

 あるとき狩りと暑さで喉の渇きをおぼえたナルキッソスは泉の水を飲もうと身をかがめました。すると水面に映った自分の姿の虜になり、そこから目が離せなくなってしまいました。

自分自身を狂おしく愛してしまい、寝食を忘れて水に映った自分を見続けた彼はやがて痩せ衰えて死んでしまいました。ナルキッソスが死んだ場所には美しいスイセンが咲いていたといいます。

※ニンフ_神々から生まれた自然を擬人化した存在。

最後に

 ストーリーを知ると少しスイセンから受ける印象が変わるような気がしませんか。

 例えば参考画像としてあげたタルボット・ヒューズ作のエコーは、白いスイセンに囲まれながら耳をすますような仕草をしてします。スイセン=ナルキッソスのシンボルだと考えると、エコーのナルキッソスを慕う気持ちや彼の声をなんとか聞こうとする、そんな様子が見えてくる気がします。

 スイセンは品種も豊富で多様な姿が鑑賞できる花ですが、いつもとは少し違った視点でスイセンを眺められるきっかけになれればと思います。

参考文献

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