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『きらきらひかる』江國香織|ゲイの夫の恋人からもらった観葉植物「ユッカ」は紅茶党!?

きらきらひかる 江國香織 ユッカ

こんにちは、ぐるりです。
ぐるりのお気に入りの本を、植物重視で深掘りしつつ紹介します。
今回は、江國香織さんの『きらきらひかる』です。

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はじめに

植物好きのぐるりが、江國香織さんの『きらきらひかる』にとても印象的に登場する、観葉植物の「ユッカ」に注目し、深掘りしていきます。

今回は、ひたすらユッカについて語っています。

観葉植物 ユッカ きらきらひかる
Photo by Anca Gabriela Zosin on Unsplash

作品の内容メインの考察ではありませんが、真っ白な状態で『きらきらひかる』を読みたい、という方はご遠慮ください。

こんな人にオススメ

「植物が出てくる小説が読みたい!」

「『きらきらひかる』に出てくるユッカについてもっと知りたい!」

作品を読んで「ユッカは本当に紅茶党なの?」と疑問に思った人

江國香織(えくにかおり)さんについて

1964年生まれ。東京出身。父はエッセイストの江國滋さん。 1987年『草之丞の話』で童話作家として出発。 小説の他に、詩やエッセイ、海外の絵本の翻訳なども多数てがけています。

受賞作品を主にまとめてみました。西暦は受賞年です。
1987年 『草之丞の話』で小さな童話大賞。
1989年 『409ラドクリフ』でフェミナ賞。
1992年 『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞。『きらきらひかる』で紫式部文学賞。
1999年 『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞。
2002年 『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞。
2004年 『号泣する準備はできていた』で直木賞。
2007年 『がらくた』で島清恋愛文学賞。
2010年 『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞。
2012年 『犬とハモニカ』で川端康成文学賞。
2015年 『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞。

ぐるりが最初に出会った江國香織さんの作品は『デューク』(短編集『つめたいよるに』に収録)。中学の国語の試験で出会いました。
『デューク』の抜粋文に心掴まれてしまい、何度も読みなおしたのを覚えています。(その時の試験は大丈夫だったのだろうか。。。)
また、映画化された『冷静と情熱のあいだ Rosso』も思い出深いです。この作品は対になっており、辻仁成さんが男性側の視点から『冷静と情熱のあいだ Blu』を、江國香織さんが女性側の視点からを書いています。
この他にも、映画化やテレビドラマ化となった作品は多くあります。

『きらきらひかる』の簡単なあらすじ

結婚したばかりの笑子と睦月。でもその結婚はとても厄介な関係でした。妻・笑子はアル中で情緒不安定、夫・睦月はゲイで恋人の紺くんがいたのです。お見合いで知り合った二人は、お互いのことを話し、許し合って結婚をしたはずでしたが・・・そんな複雑な夫婦関係から生まれる二人、いや三人の形は・・・? 普通じゃないけど、二人にとってはとても自然で誠実な日常を描いた、純粋で愛情溢れるストーリー。

『きらきらひかる』の登場人物

  • 岸田 笑子     アル中の妻、翻訳家、情緒不安定
  • 岸田 睦月     ゲイの夫、内科医、潔癖症
  • 紺(こん)      睦月の恋人、いたずら好きの貧乏学生
  • ユッカ       紺くんから結婚祝いでもらった観葉植物の鉢植え
  • 瑞穂        笑子の親友
  • 紫色のおじさん   セザンヌの水彩画
  • 笑子の母      笑子のことが心配でお見合いをすすめた
  • 睦月の父      笑子と睦月の結婚を反対していた
  • 羽根木       笑子の元彼
  • 柿井 大介      睦月の友人、婦人科医、樫部の恋人
  • 樫部        柿井の恋人、脳外科医

『きらきらひかる』に登場する観葉植物「ユッカ」

「ユッカ」は、夫・睦月の恋人の紺くんが、結婚祝いとして、笑子と睦月へ送った観葉植物の鉢植えです。 笑子は、このユッカを「紺くんの木」と呼んでいます。

葉先が鋭く印象的なユッカです。(葉先はトゲではないので触っても大丈夫です)

観葉植物 ユッカ きらきらひかる
Photo by Imartinis on Unsplash

ユッカの基礎データ

学名Yucca
英名yucca、spanish dagger(スペインの小刀)
和名君代蘭(キミガヨラン)、千寿蘭、青年の木など
分類リュウゼツラン科
樹木の種類常緑低木
原産地北米

『きらきらひかる』に登場する、紺くんの木のユッカの品種は「ユッカ エレファンティペス(Yucca elephantipes)」。
エレファンティペスは、ユッカとしてはメジャーで代表的な品種です。園芸店でユッカとして販売されているのが、このエレファンティペスです。

観葉植物 ユッカ きらきらひかる
Photo by Valeriya Kobzar: https://www.pexels.com/photo/wood-sand-summer-garden-7882492/

大きく育つと、株元が太くなり、ゾウの足に似ていることからついた名前だとか。
乾燥に強く、耐寒性もあり、耐暑性と耐陰性もあるため、観葉植物としてはとてもたくましく優秀。初心者向きの植物です。

観葉植物 ユッカ きらきらひかる
Photo by Faran Raufi on Unsplash

『きらきらひかる』でのユッカの描写

日常の中でユッカに出会うと、笑子が紅茶を紺くんの木に注ぐシーンを思い出してしまうほど、私の中ではユッカと言えば江國香織さんの『きらきらひかる』の作品、というように強烈に結びついています。

『きらきらひかる』の中でユッカが登場する描写を抜粋してみました。 笑子の表現が豊かということもあり、とても親しみのある描写が多く感じます。

視線を感じてふりむくと、ユッカエレファンティペスがこっちをじっとみている。青年の木、という奇妙な別名を持つこの鉢植えは、紺くんからの結婚祝いだ。大きくてとがった、まっすぐな葉っぱをどっさり繫らせているこの木は、どこか挑戦的な感じがする。私は紺くんの木をにらみつけ、ウイスキーを飲みほした。

私はコップに水をいれて青年の木にやった。ブラインドごしの朝日がじゅうたんにあかるい縞模様をつくり、水はしゅわしゅわとおいしそうな音をたてて土にすいこまれていく。

紺のくれた鉢植えにさめた紅茶を注ぎながら、笑子は、子供なんてめんどくさい生き物ねえ、としみじみ言った。笑子はこの植木が紅茶党だと信じている。紅茶をやると、うれしそうに葉をふるわせるというのだ。

ラジオはソフトロックのステーションになっていて、ユッカエレファンティペスもセザンヌも、すでにテーブルについている。乾杯しましょうか、と笑子が言った。

ユッカが結婚祝いとしてやってきたばかりの頃の笑子とユッカの関係性は良好とは言えません。にらみつけたり、雑巾を投げつけたり、いまいましいと笑子が言ったりしています。 お水や紅茶をあげる過程で、徐々に親しくなっていったように感じます。 最後には、一緒に住んでいるうちの一人として扱われているようにも思えます。

紺くんの木(ユッカ)は、本当に紅茶が好きなのか?

ユッカ きらきらひかる 紅茶
Image by Yung-pin Pao from Pixabay

笑子は水以外に、「冷めた紅茶」「トマトジュース」「お砂糖一つとラム小さじ半分の紅茶」をユッカに与えています。 正直なところ、水以外のものを、植物に与えても大丈夫なのか?と心配になりました。

私はリビングにひきあげて、残りのトマトジュースを紺くんの木にやった。
「いいのかなぁ、トマトジュースなんかやって」台所から睦月が言う。
「いいんじゃない、栄養あるんだから」

笑子はすっかりさめてしまったラム入り紅茶をごくごくと一気に飲み、もう一杯の紅茶を植木鉢にそそいだ。「紺くんの木、お砂糖一つとラム小さじ半分っていう紅茶がいちばん好きみたい」

結論としては、「やめた方が良い」。

冷めた紅茶・・・微妙
紅茶は弱酸性のため、アルカリ性土壌を好むユッカには不向きです。また、ミルクや砂糖入りの紅茶、濃厚な紅茶は、植物の生長を妨げるため、悪影響となります。熱い紅茶も、植物を傷めます。

トマトジュース・・・たぶんNG
商品によっては糖分が入っているため、植物には悪影響です。糖分は、植物の養分の吸収を妨げます。 糖分なしタイプでも、トマトの濃度が高く植物の生長を妨げる可能性があると思われます。

お砂糖一つとラム小さじ半分の紅茶・・・NG
ラム酒の糖質はわずかなようですが、砂糖(糖分)は植物には悪影響。冷めた紅茶の方がまだマシです。

では、水以外に与えて良いものとは?

炭酸水 ・・・おすすめ!
炭酸水は、植物の生長を早め、葉の緑を鮮やかにするのだそう。 炭酸水が、水よりも植物の生長の助けるなるなんて、驚きの事実です。

願いがかなうものなら、笑子に教えてあげたい・・・
「紺くんの木は、炭酸水をあげるともっと喜ぶよ」って。

ちなみに、ユッカは砂漠出身のため、乾燥気味に育てた方が良く育ちます。水や炭酸水の与え過ぎは注意です。

RTE:Could leftover coffee, tea and other drinks feed your plants? より参照

ユッカとユッカガ(蛾)の共生

きらきらひかる ユッカ
Image by HeungSoon from Pixabay

『きらきらひかる』の作品の中での登場はありませんが、ユッカと共生関係のユッカガ(蛾)の紹介をしたいと思います。

日本にあるユッカは、花を咲かせても、決して実をつけることはありません。それは、ユッカの花粉を運ぶ唯一の存在「ユッカガ(蛾)」が日本にいないからです。ユッカガは、ユッカの自生地(北米)のみで生息する、白くて小さな可愛らしい蛾です。

ユッカガの写真はこちらのサイトで見れます。
U.S. FOREST SERVICE:Yucca Moths (Tegeticula sp.)

ユッカガの幼虫は、ユッカの種子しか食べません。(幼虫がユッカの実を食べつくすことはありません)母親のユッカガは、幼虫のためにユッカの花に産卵します。この時にユッカガが、ユッカの花粉を運びます。 ユッカは、ユッカガがいないと実をつけることができず、ユッカガもユッカ無しでは生きていけないのです。

ユッカガ・ユッカ(雄花・雌花)の共生関係が、笑子・睦月・紺くんの三人の関係と少しリンクしているようにも思えたりもします。 ユッカガなしでは結実しないなんて、本当に独特な関係性だけど、ユッカとユッカガにとっては、とても普通でごく自然の流れだったのでしょう。 『きらきらひかる』の作品の中では、「銀のライオン」という表現が出て来ます。 視点は違いますが、銀のライオンもユッカも似た響きを感じてしまいます。

The National Wildlife Federation:Yucca Mothsより参照

おわりに

江國香織さんの『きらきらひかる』に登場する、観葉植物のユッカに注目して、深掘りしてみました。
今回、ユッカをはじめ植物は、炭酸水が生長に良いということが分かり、驚きました。
ユッカを通して『きらきらひかる』の世界観や、3人の関係の理解に繋がっているように感じます。他者から見ると不思議な関係だけれど、3人にとってはとても自然な関係性なのかもしれません。ユッカを探しながら『きらきらひかる』をもう一度読んでみてはいかがですか?

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『きらきらひかる』関連作品

少し前ですが、『きらきらひかる』は映像化しています。キャストは、薬師丸ひろ子(笑子)、豊川悦司(睦月)、筒井道隆(紺)です。今だとどんなキャストがいいかなぁなんて妄想してしまいます。

『きらきらひかる』の10年後を綴った続編もあります。短編集『ぬるい眠り』に収録されています。

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植物が登場するおすすめ小説

植物が登場するおすすめの小説があります。良かったらこちらもチェックしてみてくださいね。

コメント

  1. なな より:

    こんにちは。
    私も「きらきらひかる」好きです。
    ホームページあるのでよかったら見てくださいね。

    • ぐるり より:

      ななさん、記事を読んでいただきありがとうございます。
      ホームページ拝見しました。素敵ですね。
      音楽、お酒、フォトギャラリーなどで細かくチェックでき嬉しくなりました^^