植物学者・牧野富太郎の植物図鑑についてまとめてみました。この記事では、牧野富太郎が生涯をかけて作った植物図鑑の特徴や、デジタル閲覧が可能な図鑑、現在でも購入が可能な図鑑、ぐるりのおすすめ図鑑などを紹介します。また、図鑑・図譜・図説などをまとめて「図鑑」として表記しています。
植物学者・牧野富太郎について
牧野富太郎(1862~1957)は、高知県出身の植物学者です。「日本植物学の父」と呼ばれています。新種のヤマトグサを発表し、日本人で初めて学名をつけました。その後も、数多くの新種を発見し、命名した植物は1,500種類以上。さらに、94年の生涯で収集した植物標本は、なんと約40万点。描いた植物図は約1700点にものぼります。研究の集大成でもある『牧野日本植物図鑑』は、今日の植物図鑑の基本となっており、現在も販売されているロングヒットの図鑑です。
また、NHKの2023年春からスタートする朝の連続テレビ小説『らんまん』は、牧野富太郎をモデルとした、天才植物学者・槙野万太郎(まきのまんたろう)の波乱万丈の物語・・・とっても楽しみです!
参照:らんまん |NHK_PR|NHKオンライン
牧野富太郎のより詳しい人物像については、こちらの記事にまとめてみました。
牧野富太郎の図鑑以外の本についてはこちらの記事でまとめています。
牧野富太郎の植物図鑑の特徴
牧野富太郎が78歳の時に発行した『牧野日本植物図鑑』は、今日の植物図鑑の基本となっていると言われています。牧野富太郎の描く植物図は、「牧野式植物図」と呼ばれ、その植物の典型的で平均的な状態が描かれており、部分図や解剖図なども多く用いました。蕾や根、果実など詳細に描くことで、花の時期ではなくとも、図鑑で調べることができます。植物には個体差がありますが、牧野富太郎は多くの個体を観察・採取し、その植物の典型的な状態を描いています。一つの植物を模写した植物図となると、その個体の情報のみしか読者は得られません。
また、植物を採取し、研究し、植物図を描く、という流れがすべて一人でできる、という点も牧野富太郎の大きな強みです。当時、植物図を描く際には、絵師を雇うのが一般的でした。しかし、絵師は植物の専門家ではないため、植物の絵が少し違う、細かい部分が正確ではない、なんてこともあったようです。
さらに、日本に親しみのある、私たちの身近な樹木や草花が多く掲載されているのも特徴の一つです。多くの図鑑が、日本固有種をはじめ、園芸品種や野菜など幅広い種類の植物を紹介しています。
デジタル閲覧が可能な牧野富太郎の植物図鑑
インターネットでデジタル閲覧が可能な、牧野富太郎の植物図鑑を紹介します。紹介している図鑑は、どれも無料で閲覧ができますので、是非アクセスし、牧野富太郎の緻密な植物画を堪能いただきたいです!当時の図鑑とあって、旧字体が使われており文章が読みづらくはありますが、植物画や標本を眺めるだけでも楽しめますよ。
高知県立牧野植物園
高知県立牧野植物園のサイトには、牧野富太郎の集大成『牧野日本植物図鑑』が公開されています。全ページが無料で閲覧可能という素晴らしいコンテンツです。
- 『牧野日本植物図鑑』 ・・・高画質でおすすめ!
国立国会図書館デジタルコレクション
国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている植物図鑑をまとめました(共著も含みます)。 国立国会図書館デジタルコレクションとは、国立国会図書館で収集しているデジタル資料を閲覧できるサービスで、当時のままの形でデジタル化されているものを無料で閲覧できるという、とても有難いサービスです。紹介している図鑑は、ログインなしで閲覧が可能ですので、ぜひ一度見てみてください。当時の雰囲気が味わえます。
- 『新撰日本植物図説 第2巻第2集』 モノクロ(植物画)
- 『日本高山植物図譜 第1巻』 モノクロ(植物画)
- 『日本高山植物図譜 第2巻』 モノクロ(植物画)
- 『原色日本高山植物図譜』 カラー(植物画)・・・見やすくておすすめ!
- 『日本禾本莎草植物図譜 第1巻 第2集』 モノクロ(標本)
- 『日本禾本莎草植物図譜 第1巻 第3集』 モノクロ(標本)
- 『日本禾本莎草植物図譜 第1巻 第4集』 モノクロ(標本)
- 『日本禾本莎草植物図譜 第1巻 第10集』 モノクロ(標本)
- 『日本禾本莎草植物圖譜 第1巻 第1-4,6-9集』 モノクロ(標本)
- 『原色野外植物図譜 上卷 増訂 3版』 カラー(ほぼ標本)
- 『原色野外植物図譜 下卷 増訂 3版』 カラー(標本)
- 『日本羊齒植物圖譜 第1巻 第1-6集』 モノクロ(標本)
- 『図説普通植物検索表 第1 (草本)』 モノクロ(植物画)
今現在も購入可能な牧野富太郎の植物図鑑
現在でも購入できるおすすめの牧野富太郎の植物図鑑を、図鑑の特徴とぐるり個人の見解付きでまとめてみました。購入可能な図鑑には主に「当時の図鑑」「改訂を重ねている現代版の図鑑」の2種類になると思います。当時の図鑑は入手困難なものも多くありますので、中古を検討してみても良いかもしれません。図鑑は今回紹介しているもの以外にもありますので、さらにリサーチしてみてください。
ぐるり個人の感想ですが、多くの図鑑は植物名と代表的な品種を調べることを目的としており、品種数の紹介はさほど多くありません。ある植物の品種名を知りたいという場合は、特定の植物図鑑など別の書籍を合わせて活用してみても良いかもしれません。
※紹介している購入リンクには、中古のものも含まれますのでご注意ください。
・『卓上版 牧野日本植物圖鑑』 (2017年出版、北隆館)
牧野富太郎の集大成『牧野日本植物圖鑑』をコンパクトにした卓上版(B6判)。モノクロの美しい植物画がリーズナブルな価格で堪能でき、初心者も楽しめる。
ウェブサイト:北隆館 卓上版 牧野日本植物圖鑑
・『新学生版 牧野日本植物図鑑』 (2020年出版、北隆館)
ロングセラー『学生版 牧野日本植物図鑑』の新版で、コンパクトサイズの図鑑(B6版)。「学生版」とは、より一般の人たちに手に取りやすい普及版として作られたもので、学生でなくても大丈夫。掲載種数は2,432種。
ウェブサイト:北隆館 新学生版 牧野日本植物図鑑
・『新分類 牧野日本植物図鑑』 (2017年出版、北隆館)
『牧野日本植物図鑑』のAPG(※)対応の大型図鑑(B5版)。日本に自生し一般によく知られている植物、代表的な栽培植物、帰化植物などを収録。掲載種数は5,196種。
※APG(Angiosperm Phylogeny Group)とは、DNA解析による植物の分子系統学の最新の分類です。
ウェブサイト:北隆館 新分類 牧野日本植物図鑑
・『復刻版 牧野日本植物図鑑』 (1979年出版、北隆館)
名著「新訂牧野新日本植物図鑑」の親版の大型図鑑(B5判)。昭和15年版の図鑑を復刻し再現したもの。表記が旧字体のためやや読みにくさはあるが、牧野富太郎ファンには手に取ってほしい一冊。掲載種数は3,235種。
ウェブサイト:北隆館 復刻版 牧野日本植物図鑑
・『新牧野日本植物圖鑑』 (2008年出版、北隆館)
『牧野日本植物圖館』の最新版の大型図鑑(B5判)。属や種を特定できる検索表も付いているが、初心者には扱いが難しく植物の知識がある人向け。この一冊で種子植物から地衣類までと幅広く網羅でき、専門的に植物に携わる人にもおすすめ。掲載種数は5,056種。
ウェブサイト:北隆館 新牧野日本植物圖鑑
・『原色牧野植物大図鑑 合弁花・離弁花編』 (1996・1997年出版、北隆館)
ロングセラー『原色牧野植物大圖鑑』(昭和57年刊)を、最新の植物分類学を導入した平成版の大型図鑑(B5判)。合弁花・離弁花編(きく科〜くろうめどき科)と、離弁花・単子葉編(くろたきかずら科〜そてつ科)の全2巻。「原色」というのは、牧野富太郎のモノクロ植物画に、色彩が加えられたという意味。
ウェブサイト:北隆館 原色牧野植物大図鑑 合弁花・離弁花編、原色牧野植物大図鑑 離弁花・単子葉編
・『原色牧野日本植物図鑑 1・2・3 コンパクト版』 (1990・1986・1986年出版、北隆館)
ベストセラー「原色牧野植物大図鑑」の普及版のポケットサイズの図鑑(B6判変形)。DNAによる分類が採用され、野生植物から園芸植物までと網羅的に活用できる全3巻。本格的に野外で図鑑を使用したい人におすすめ。掲載品種は1,216種、
ウェブサイト:北隆館 原色牧野日本植物図鑑1コンパクト版、原色牧野日本植物図鑑2コンパクト版、原色牧野日本植物図鑑3コンパクト版
・『APG原色牧野植物大図鑑1・2』 (2012・2013年出版、北隆館)
エングラー分類体系を、DNA解析に基づく最新のAPGシステムに変更した全2巻の大型図鑑(B5判)。旧分類体系を使用している関連書籍(北隆館『新牧野日本植物圖鑑』など)と合わせて使うことができる種番号付き。掲載植物数は4,320種類。
ウェブサイト:北隆館 APG原色牧野植物大図鑑1(ソテツ科~バラ科)、APG原色牧野植物大図鑑(グミ科~セリ科)
・『APG牧野植物図鑑1・2 スタンダード版』 (2014・2015年出版、北隆館)
大型図鑑『APG原色牧野植物大図鑑 』の掲載植物数は4,320種類のままで、大型B5判から使いやすいA5判へとコンパクトになった最新図鑑(全2巻)。モノクロの植物画も良いが、カラーも良い。比較的初心者向けの図鑑。
ウェブサイト:北隆館 APG牧野植物図鑑1スタンダード版(ソテツ科~オトギリソウ科)、APG牧野植物図鑑2スタンダード版(フウロソウ科~セリ科)
購入におすすめな牧野富太郎の植物図鑑
似たタイトルも多く、購入するにも結局何が良いのか分からないという方に、ぐるり個人の見解によるおすすめ図鑑を紹介します。植物に関する知識のレベルに分けてみました。図鑑の値段は安くないものも多いので、よく検討されてください。ご参考までに。
<初心者向け>
『卓上版 牧野日本植物圖鑑』(植物画はモノクロ)
牧野富太郎の集大成『牧野日本植物圖鑑』の現代版が、リーズナブルな価格(3,000円以下)で手に入るのが素晴らしい。美しい植物画を堪能でき、眺める図鑑としてもおすすめ。
『APG原色牧野植物図鑑1・2 スタンダード版 』(植物画はカラー)
内容が充実しながらも、他の図鑑よりサイズも小さめで使い勝手が良いです。実用的な面もありつつ、眺める図鑑としても楽しめます。最新版の図鑑。
<中級者向け>
『原色牧野日本植物図鑑 1・2・3 コンパクト版』(植物画はカラー)
ポケットサイズ(B6判変形)なので、今回紹介している図鑑の中では小さいサイズです。小さいながら、山野草から園芸種まで大図鑑なみに網羅的に使えます。本格的に野外での草花観察用の図鑑が欲しいという人におすすめ。でも、3巻すべてを持ち歩くには重いのが悩み。
<上級者向け>
『新牧野日本植物圖鑑』(植物画はモノクロ)
使いこなすにはある程度の植物の知識が必要となりますが、素晴らしい図鑑です。これぞ現代の「牧野図鑑」ではないでしょうか。専門的に植物に携わる方にもバイブルとしておすすめ。
<マニア向け>
『牧野日本植物図鑑―復刻版』(植物画はモノクロ)
戦前の昭和15年版を忠実に再現した図鑑です。本物の入手は非常に困難ですが、復刻版でも牧野富太郎の熱い想いを十分に味わうことができます。コレクションの一つにおすすめ。
おわりに
牧野富太郎が描く植物は、繊細で美しく魅入られます。彼の人生を捧げた日本の植物図鑑を、一度手に取り味わってみてください。最寄りの図書館にも所蔵があるかもしれませんので、一度チェックしてみても良いかもしれません。図鑑選びの参考になれば幸いです。
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