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『写真生活』坂川栄治 ー写真を知る、買う、飾る、眺める、写真の楽しみ方の入門書

『写真生活』 坂川栄治 表紙

はじめに

 写真集や写真を眺めるのは興味があるけれど、撮るのはあんまり、という方のほうがこの本は合っているかもしれません。というのもこの『写真生活』という本は「写真を撮る」ことの楽しみ方よりも「写真を知る」ことであまりこれまで知らなかった写真の世界と自分との距離をぐっと縮めて、最終的には「写真を持つ」ことでライフスタイルの中に写真を取り入れて、長く付き合いながら楽しんでいく、ということを教えてくれる本だからです。

こういう人にオススメ

  • 写真はあまり詳しくないけれど写真を見るのが好きな人
  • 写真家の写真集や作品に興味がある人
  • 部屋のインテリアに写真を置いてみたい人
  • 写真作品を買ってみたい人

本の構成

 大きく2章に分かれていて、前半は「写真を知る」、後半は「写真を持つ」となっています。

 全体的に専門書のような堅苦しさはなくエッセイのように読めるようになっています。

 もともと写真が好きで予備知識を持っている方はもちろんですが、写真に関する専門用語や取り上げられる写真家が分からなくても楽しんで読めます。

 今回のレビューでは、後半の「写真を持つ」を特にピックアップしてレビューしたいと思います。

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坂川栄司ってどんな人?

 著者の坂川栄司さんはデザイナーで写真家ではありません。略歴は本の著者紹介を引用します。

1952年北海道生まれ。凸版印刷、百貨店宣伝部を経て、87年坂川事務所設立。雑誌『SWITCH』のアートディレクターを創刊から4年間務める。その後書籍の装填を手がける一方、広告、PR誌、カタログ、CDデザイン、映画ポスターなど、幅広いアートディレクションを行う。93年に講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。現在までに手がけた装填本は2600冊を超える。代表作に、吉本ばなな『TUGUMI』、ヨータイン・ゴルデル『ソフィーの世界』などのベストセラーがある。

 デザイナーが本業ですが、自分で海外に写真の買い付けに行ったり、写真ギャラリーを開いてしまうくらいの無類の写真好きという一面も持っています。

前半部「写真を知る」の紹介と楽しみ方

「写真を知る」の紹介

 前半の「写真を知る」では坂川栄治さんの印象に残った写真家や写真集について自身がその作品に出会った頃の思い出や感じたことをまじえながら紹介されています。

 ここで取り上げられている写真家を並べてみます。

ダイアン・バース、ロバート・フランク、E.J.べロック、ユージン・スミス、イモジェン・カニンガム、ユージン・スミス、ベルナール・プロシェ、ハーバード・リスト、アンドレ・ケルテス、マヌエル・アルバレス・ブラボ、コンスタンティン・ブランクーシ、ラルフ・ギブソン、ディスファーマー、ジョン・ローエンガード、山沢栄子、ヨゼフ・クーデルカ、アルベルト・レンガー=パッチュ、ジゼルフロイト

 私はダイアン・バース、E.J.べロック、アンドレ・ケルテス、マヌエル・アルバレス・ブラボ、ラルフ・ギブソン、アルベルト・レンガー=パッチュが気になりました。気になった写真家たちの写真は写真の画面自体は整理されて落ち着いています。ところが見ているとドキッとするような瞬間を持っていて、その矛盾した両面性が印象的でした。

 ここで取り上げられている写真は少なくとも20年以上は経過している古い写真たちばかりですが、今眺めてみても古さをまったく感じさせません。古さを感じさせない理由は被写体であったり構図であったり、さまざまな角度からその普遍性を手に入れているからだそうです。

 そのことに写真について全然知らない私が坂川栄治さんの言葉のレンズを通して写真を見ることでだんだんと気づいていきます。それは素直にすごいことだと思いますし、言語化された他人の視線や思考を通して写真を見ることで、普段感覚的にぼんやりと写真を見るのとはずいぶん違った見方ができることに驚かされました。

「写真を知る」の楽しみ方

 『写真生活』の一冊全体を通して言えることですがこの本を楽しむのに写真や作家に対する知識が必要かというと、まったく必要ありません。なぜなら私自身も写真に全然詳しくないので、断言できます(笑) 

 「写真を知る」でも、たくさん出てくる作家の名前がまったくわからなくて、この本にも白黒で参考写真が小さく入っているものですが、それでは物足りなくなってネットで検索しながら読んでいました。そうすると素敵な写真がでてくる、でてくる! だんだん楽しくなってきて、お気に入りの作家はいつでも見られるようにブックマークまで作ってしまいました。

 読みながら調べたりするのは少し面倒に感じるかもしれませんが、そうやって気になる写真家が増えていくと、自分の世界観が広がっていく感覚を味わえるので読み方としておすすめです。

後半部「写真を持つ」の紹介と楽しみ方

「写真を持つ」の紹介

 後半の「写真を持つ」では前半とは雰囲気が変わって、写真との理想の関わり方を教えてくれます。それは「写真を持つ」というタイトルにもあるように自分の好きな写真を1枚購入して持つことがゴールになります。写真を買うというのは経験のない人には抵抗感があるかもしれません。私も写真を買ったことはなくて、半信半疑でこのパートを読んでいたのですが、読み終わる頃には不思議と1枚写真を買ってみようかなという気持ちになっていました。

 本の冒頭では坂川栄治さんの写真との出会いから始まり、最後はなんと自分のギャラリーを運営しするところまで書かれています。それらの数々の経験をもとに、写真の飾り方や買い方・選び方までレクチャーしてくれます。

 後半部分は自分も写真を飾る気持ちで読んでみたり、ギャラリーに出かけて写真を1枚買う気持ちで読んだりすると自然と心がワクワクしてきます。この本を読み終わった後にどこか気になるギャラリーを探して足を運んでみると、いつもとは違う気持ちで写真や絵画を眺められるかもしれません。

写真の力強さ

 坂川栄司さんは雑誌『SWITCH』に創刊時からデザイナーとして参加しており、そのときも誌面をデザインする際に写真に関わることは多かったそうです。

 『SWITCH』がどんな雑誌か気になる方もいるかもしれませんので、以下に公式の紹介文を引用しておきます。

 SWITCHは、1985年の創刊以来、「時代をつくる鮮やかな個人の軌跡を追いかけ、その吐息と輝きを伝える」というコンセプトのもと、30年以上にわたりインタビュー誌として多くの読者とともに歩んできました。

 音楽、映画、文学、アートなど、さまざまなジャンルの第一線で活躍する表現者達に出逢い、彼らが小誌にしか語らない言葉を引き出すインタビュー、小誌にしか見せない表情を引き出すフォトストーリーによって、同時代に生きる表現者が、 何を考え、何を感じ、どんな生き方をしてきたのかを、深く掘り下げていきます。

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 『SWITCH』って私が初めて見たとき(15年以上前)は現在よりも本のサイズが縦長で、他の雑誌よりも大きさから違っていて雑誌のカタチからすごく尖った感じでした。中のページを開くとカラーの映画俳優の写真が紙面いっぱいに何ページも広がっていて、ビジュアルもものすごくかっこよかったです。

 ただ創刊当時は相当お金がなかったらしく、私が見たときのような見開きのカラーページが連発されるような紙面構成はできなかったみたいです。そこで、坂川栄治さんはその分いろいろ工夫をしながら雑誌を作っていったようです。坂川栄治さんはそのときにモノクロページの誌面のデザインの仕方をいろいろ試しながら学んだそうで、それについて印象的な言葉を言っています。

 レイアウト次第ではかえってモノクロページのほうが強いページになることをデザインしながら学んだ。

 制約された条件の中で試行錯誤したことが結果的に雑誌のオリジナリティを高めることになるという話は逆説的で面白いですよね。

 当時の『SWITCH』をデザインしている際の話としてもう一つ印象的なものがありました。

 力のある美しい写真に対してデザインしようとしても、デザイナーはそういう時には無力にならざるを得ないんだということを知ったのもこの頃だった。

 本当にいい写真というのはそれだけで完成されていて、もう手を入れるところはどこにもないんでしょうね。もっと良く見せようと思って手を入れると、最初の印象がかえって損なわれてしまう。それほど1枚で完成された写真というのは圧倒的だったそうで、それらの写真がいったいどんなものだったんだろうとすごく気になってしまいました。

写真の価格

 写真を買うってなると気になるのは値段ですよね。みなさんは写真の価格の相場っていくらくらいかわかりますか?

 ちなみに歴代の写真の最高価格は2014年に650万ドル(約7億8000万円)の価格がついたピーター・リックの”Phantom”という作品です。ものすごく高いと思いまよね・・・ところが絵画作品の歴代最高価格はいくらかというと、レオナルド・ダ・ヴィンチの”サルバトール・ムンディ”という作品でその2017年に落札された価格はなんと4億5000万ドル(約500億円)!!! この絵画は購入された後もダ・ヴィンチのらしいというのか、謎が深まっています。気になる方は調べてみてください。

 桁が2つも違います。なぜこんなに価格差があるのか詳しくはわかりませんが、やはり歴史も長く1点もののアート作品というは価格も相応に高いのでしょうね。

では、もっと一般的な写真作品がいくらくらいかというと、

 基本的には市場で相場が決まっており、新人作家の場合は3万円~、中堅作家は10万円~、それ以上になると20万、30万円~(国内、2010年現在)がだいたいの目安となります。部数を限定した「リミテッド・エディション」の場合はさらに付加価値がつき、「ステップ・プライス」という形で残部が段階的に価格を上げていく場合もあります。また、近年では美術作品と写真作品との市場の区別が曖昧になっており、写真作品としては考えられないような高値がつくケースが増えています。

株式会社フォトクラシック https://www.photoclassic.jp/faq/price-of-art-photo/

 これなら少し頑張れば手が届きそうな金額に思えます。坂川さんも初めてオリジナル・プリントを購入したときはアンセル・アダムスの作品が3万5000円で売られており、想像したよりもはるかに安いことに驚いて、その場で購入したそうです。

写真の楽しみ方

写真を飾るにはまず壁がいい

 ところでみなさんの家の壁に何か飾っているものはありますか? 坂川栄治さんは1度でいいからだまされたと思って壁に飾るためのものを1枚買ってほしいと言います。なぜ壁かというと、

 部屋の中で何もないスペースとして一番面積が広く、一番先に目に入ってくるのが壁だからである。そして住む人の趣味を凝縮して見せるのも「壁」である。

 私はどんなに高価な家具や調度品が配されていても、そこに住む人間の趣味や個性が、床面だけではなく壁面にも投影されていなければ、部屋を豊かにしているとはいえないと思っている。

という坂川栄治さんの壁に対するこだわりの哲学があるからです。たしかに自分の家を思い浮かべても、家具や電化製品はそこそこありますが、壁はぽっかりとした空白のようにスペースが空いています。

 そんなこと言われても「ウチは賃貸だからなぁ」って思う人もいるでしょう? 安心してください(?) 賃貸でもできる壁の飾り方を坂川さんはご自分の失敗談も含めてちゃんとレクチャーしてくれます。最後は自分の気持ちの持ち方次第で多少強引なところもありますが、一読の価値ありです!笑

 お茶の世界でも茶席を設ける際に亭主が掛け軸を飾りますよね。茶道では掛け軸を飾る目的は二種類あるそうで、一つ目はその日の茶席の趣向や意図を伝える目的であったり、亭主の心構えを表すためです。二つ目は季節感の演出のために掛け軸を用います。

 茶道の場合はあくまで、もてなす相手が存在して、掛け軸を飾るわけですが、坂川さんは写真を買うときも、飾るときも、あまり見せる相手にこだわらない方がいいとアドバイスします。

 不安だ、失敗したくない、ほめられたいけど、それにはどうしたらいいかわからない。変だとかダサいとも思われたくない。自分のセンスに自信がない。そして自身がないからわがままになれない。そして自信を補うために有名で高価であれば大丈夫だろうという、一番まずいケースに落ち着く。

 せめて自分の部屋に何かを飾るときくらいは、そんな呪縛から解き放たれたいものである。それにはまず自分の感覚、感性に自信を持つことである。自分が好きだと思うことに忠実になることである。

 あくまでもそこに住んだり、仕事をしたりする人間は主人公なのだから、飾ることを自分のために楽しみたいと思っている。他人に見せるのは二の次である。

 写真を楽しむのにはまわりの目を気にせず、もっと自分本位に自由になっていいのだと教えてくれます。だってそこは自分がいちばん時間を過ごす、自分のための空間なんだから、と。

ギャラリーに出かけてみよう

 写真に興味のある方は美術館に好きな作家の展示があると、見に行ったりもする方もいると思うのですが、個人のギャラリーに写真を見に行くっていう人は少ないかもしれません。私も絵画やインスタレーションなどで気になる作品はネットで調べたりして美術館に出かけて行くことはあるのですが、写真の展示って美術館以外は行った記憶がありません。

*インスタレーション_1970年代以降一般化した現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し、変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。

 この『写真生活』を読むまで私もあまり知らなかったのですが、日本では写真を扱うギャラリーのほとんどが、実際は場所を貸すだけの貸しギャラリーで、個展をしたい人がギャラリーのオーナーにお金を払って展示することが多いそうです。販売を目的に企画展示をしているギャラリーは(2002年時)都内でも数カ所しかないほどめずらしかったそうです。

 坂川栄治さんが当時始めたギャラリーでは展示と販売を目的とする、そんなレアなギャラリーとしてオープンしました。この本のタイトルにもあるようにギャラリーに訪れた人に『写真生活』をしてほしかったからだと言います。ギャラリーを始める前に坂川栄治さんがアメリカに展示用の写真を買い付けに行った際に、アメリカのギャラリーでは客がふらっと入ってきてはゆっくりと写真を眺めて、気に入ったものを買って帰る姿が印象的だったそうです。

 日本では写真を気軽に買って、家に飾るというライフスタイルはあまり一般的ではありませんが、そういうライフスタイルを日本でも楽しんでもらいたいという想いがギャラリーを開く動機になったそうです。

 そういうコンセプトがギャラリーの内装にも反映されています。この本の中には坂川栄治さんの「バーソウ・フォト・ギャラリー」での展示風景の写真も載っています。それを見ると、展示風景の延長線上に日常生活の中に写真を飾る景色が見えるようなデザインになっていました。坂上さんらしいこだわりのある背景の壁、ゆっくりと写真を眺める時間を作るための椅子やソファー。ゆっくりと写真を眺めて、自分の家や部屋の中を思い浮かべながら、この写真ならどこに飾ろうか?と想像を膨らませてギャラリーで時間を過ごすのも新鮮で素敵な体験だろうな、と思わせてくれそうな空間になっています。

 残念ながら、運営が上手くいかず5年で「バーソウ・フォト・ギャラリー」は閉廊してしています。読みながら一度ぜひこのギャラリーは行ってみたいと思っていたのですが残念で仕方ありません。

最後に

 今はスマホがあれば、いろんな写真や動画が片手でサクサク見られるようになりました。スマホやインターネット環境が充実したことで写真を撮ることも、撮影した写真を見てもらうことも誰かの写真を見ることも身近で手軽になりました。でもこの本を読んでいると、写真に触れる機会は以前よりずっと多いのに、一枚一枚の写真にかける時間はものすごく短くなっていることに気づかされました。

 そう思うと、坂川栄治さんがすすめてくれるような自分にとって特別な写真を選んで、自分の空間に好きなように飾り、それをじっくりと時間をかけて眺めるようなライフスタイルがあってもいいのかな、とこの本を読んで考えるようになりました。

 絵画や小説や映画もそうですが、初めてみたときと次に見たときでは印象が変わることがあります。写真を眺めるときも同じように飾り方やちょっとした光の変化や時間帯、自分のその時の心や体のコンディションの違いなど些細な変化が新しい発見を生むかもしれません。そうしたことに気づくにはライフスタイルの中に自分にとってのお気に入りの写真たちが入り込むことはうってつけかもしれませんね。

 あなたもこの本を手にとって、あなたにとっての「写真生活」をはじめてみませんか?

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