シャクヤクはつぼみからは想像できないほど豪華で存在感のある美しい花が開きますが、他方で古くから和洋問わず薬用植物としても重宝されてきました。今回はそんなシャクヤクをシンボルとしての視点からご紹介します。
シャクヤクの特徴
シャクヤクはもともと薬草として中国から日本に渡ってきました。日本にもともと自生していたヤマシャクヤクと合わせて和シャクと呼ばれ、大ぶりで一重咲きのシンプルな咲き方をします。
他方で西洋にもシャクヤクは伝わり、こちらは洋シャクと呼ばれ、八重咲きで花色が豊富にあります。
学名 | ボタン科ボタン属 |
分類 | Paeonia lactiflora |
原産地 | 中国北部、朝鮮半島 |
草丈 | 50-100cm |
花径 | 10-15cm |
開花期 | 5-6月 |
花持ち | 5-7日 |
流通時期 | 3-7月 11-12月(切花) |
ギリシャ神話とシャクヤク
ギリシャ神話の中ではシャクヤクは花そのものの美しさや華やかさよりも「薬草」としての効能に焦点を当てて描かれているようです。
神々の傷をも癒やす【万能薬】としてのシャクヤク
ギリシャ神話ではシャクヤクは神の死と再生(変身)のドラマとして描かれています。
治療の神パイオンは、冥界の王ハデス(プルトン)がヘラクレスの矢で傷つけられたとき、シャクヤクの花でハデスの傷を治しました。このパイオンの功績を知って嫉妬にかられた医術の神アスクレピオスはパイオンを殺してしまいます。パイオンの悲劇を憐れんだハデスは自らの傷を癒したシャクヤクの花にパイオンを変え、永遠の命を与えたとされます。
後にパイオンはアポロンと同一視されています。アポロンはトロイア戦争ではシャクヤクに変身して傷ついた神々を治して回ったと言われます。ただしこの話には諸説あります。
中国の説話とシャクヤク
中国ではボタンはその圧倒的な存在感と豪華さから「花の王」とされる一方でシャクヤクは「花の宰相(※)」として優しさのある美しい花として親しまれています。そんなシャクヤクと宰相にまつわる一説を紹介します。
※宰相__旧中国の官職。天子を助けて政治を行う最高の行政首長をいい、内閣総理大臣に相当する。
【立身出世(※)】を象徴するシャクヤク
中国では昔から「天下に名高きは揚州(※)の芍薬」と言われ、その言葉に関する説話が数多くあるそうなのでそのうちの一説をここでは紹介します。
北宋の政治家に韓琦(かんき)という人物がいました。彼の庭園には1本のシャクヤクが植わっていましたが、そのシャクヤクは不思議なことに茎の途中で4本に枝分かれしてそれぞれに一輪ずつ花が咲いていました。さらに花びらはよく見ると当時の揚州には見られない華やかな色をしていました。韓琦は美しく珍しい花が咲いたことを記念して宴を催そうと4人の客人を招くことにしました。
王安石(おうあんせき)など身分の高い者3人はすぐに集まりましたが、4人目はなかなか見つからず、宴が始まる直前になって旅行で訪れていた男を宴席に加えてようやく宴会が始まりました。
宴会が盛り上がってくると、4つに枝分かれしたシャクヤクを4人で一枝ずつ分けてそれぞれの頭に挿して宴会をいっそう華やかで楽しいものにしました。
それから30年の月日が流れた後、振り返ると宴会に足を運んだ全員が宰相に出世していたことから、シャクヤクは出世の花として尊ばれたそうです。
※立身出世__成功して世間に名をあげること
※揚州__中国,江蘇省南西部の都市。旧名江都。大運河西岸にあり,隋代以後特に繁栄した。
【美人】のたたずまいはシャクヤクのよう
シャクヤクというと有名な「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉のなかでシャクヤクは【美人】の立姿を象徴する花の一つとして美しく描かれています。これはシャクヤクがまっすぐ伸びた茎の先に花をつけるのに対して、ボタンは横に伸びる姿から形容されたようです。
シャクヤクの種小名”lactiflora“は「乳白色(※)の花の」という意味です。乳白色というと画家の藤田嗣治の描く美しい女性の肌の色の代名詞ともなっています。女性の姿や振る舞い、肌の色をシャクヤクにたとえるのは日本人の好みに合っているのかもしれませんね。
※ 乳白色__わずかに黄色みのある乳のような色のこと
最後に
シャクヤクは「芍薬」という字のとおり薬草としての効能に重きを置いた形でギリシャ神話では語られていました。ザクロやヒヤシンスなどの記事でも書いたように、ギリシャ神話では植物は神やニンフの生まれ変わりとして描かれることが多いようですね。
一方でシャクヤクは花としての見た目も美しく、洋シャクは八重咲きでゴージャスな印象がありますが、和シャクもすっきりとした見た目で優しさがあります。そうしたシャクヤクの花姿から【立身出世】【美人】【優美】といったシンボルが生まれています。そういう意味では男性にも女性にも贈ると喜ばれる花と言えるかもしれませんね。
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