スイカズラは日本原産で、甘い香りのする白い花を咲かせる常緑の蔓(つる)性植物です。
スイカズラは日本の山野に自生しており、夏頃になると花を咲かせます。
日本人の私たちにとっては身近な存在の植物ですが、今回はそんなスイカズラの意外なシンボルについて紹介したいと思います。
スイカズラの特徴
スイカズラはいくつもの特徴を持っていて、その特徴から呼び方や書き方が変わります。
和名の「吸葛」は花に甘い蜜があることに由来します。「忍冬」とも書かれますがこれは文字通り厳しい冬の寒さの中でも葉や茎は枯れずに耐え忍んでいる様子からこの名がついたと言われます。
また、花の色が白色から黄色に次第に変化していくことから中国では「金銀花」とも呼ばれます。
スイカズラは薬草としても古くから用いられており、主に解熱、消炎、利尿薬としての効能があると言われます。
春に咲き花の香りが良いことから庭にもよく植えられますが繁殖力が非常に強いため、植える場合は注意が必要です。
分類 | スイカズラ科スイカズラ属 |
学名 | Lonicera japonica |
原産地 | 日本/中国/台湾 |
草丈 | 3-5m |
開花時期 | 5-9月 |
花持ち | 5-7日 |
花色 | 黄/白 |
中国の説話とスイカズラ
双子の姉妹の死と生薬としてのスイカズラの誕生
中国の河南省にある村に金花、銀花という双子の姉妹がいました。彼女たちの容姿は名前のとおり花のように美しく、求婚する青年は後を断ちませんでした。けれども姉妹は離れ離れになることを嫌がって、青年たちの申し出を断り続けていました。
そんなある日、姉が熱病にかかってしまいます。すると、ほどなくして妹にも移り、2人とも床に臥してしまいます。
死を覚悟した姉妹は息を引き取る間際に次のように両親に言い残しました。
「死んだ後は2人とも同じ場所に埋めてください。そうすれば、私たちは薬草として生まれ変わり、人々の熱病を治します」と。
やがて、その亡くなった姉妹の墓から生えてきたのが、スイカズラなのだと言います。
この中国の物語ではスイカズラの誕生をスイカズラの花が白から黄色に次第に変化する様を双子の姉妹として擬人化して捉えているところが面白いですね。姉妹はお互いが別れることをひどく怖れていますが、そういう部分は双子座のモデルとなっているギリシア神話に登場する双子の兄弟カストルとポルックスの物語に通じる部分があります。
ギリシャ神話と双子座の誕生物語
少し話は脱線しますがギリシャ神話の双子座の物語から双子の話をもう少し掘り下げたいと思います。
武勇に優れた双子の兄弟
双子の兄弟は大神ゼウスとスパルタの王妃レダとの間に誕生し、武勇の才に恵まていました。兄のカストルは剣の達人で、弟のポルックスは馬術に優れていました。兄の肉体は通常の人間と変わりませんでしたが弟のポルックスはゼウスの血を色濃く受け継いでいたため不死の肉体を持っていました。
双子の兄弟は共に戦場を駆け巡り、多くの武功をあげていましたが、ある時兄のカストルは流れ矢に当たってしまい命を落としてしまいます。
兄の死と弟の願い、そして双子座の誕生
弟のポルックスは兄を失った現実を耐え難いものとして受け入れることができませんでした。ポルックスはゼウスに自らの不死を解いて、兄と一緒に死にたいのだと直訴しました。兄を強く慕うポルックスの心に打たれ、ゼウスはその願いを叶えます。
こうして2人は再び一緒に夜空にのぼり、双子座になったと伝えられています。
双子の片方が残るという結末ではなく、2人が死ぬことでシンボルとして再生するという流れは両者の物語に共通しています。「双子」ということ自体がそもそも古くから象徴性や神秘性を持っているのかもしれません。
スイカズラのシンボルとその由来
白は【貞節】を表し、スイカズラの白い花が次第に黄色に変化してく姿は【深まる愛】を表します。これらからスイカズラは【誠実な愛】のシンボルとして表されます。
スイカズラの蔓(つる)と花の組み合わせは装飾における【吉祥】模様として描かれます。古代エジプト、ギリシャ、ローマ、中国を経て日本へと伝わりました。
また蔓(つる)の絡み合う姿や、花が甘い蜜を持つことから【愛の絆】を紡ぐ【恋人たち】を象徴します。
ギリシャ神話ではスイカズラの花は【永遠の喜び】を表します。
愛し合う若い2人の愛はスイカズラの花が咲いていいるほんのいっときしか続かないのだと言われていました。そこで若者たちはこの愛が永遠に続くようにと愛と美の女神アフロディテに花の命がずっと続くようにとお願いをしたのだそうです。
最後に
中国の説話ではスイカズラは薬草としての効能から双子の姉妹の生まれ変わりとして描かれていました。この物語では双子として描かれていますが、ギリシャ神話では恋人を表し、民間伝承では、蔓(つる)の長さが長かれば長いほど夫婦の絆や連帯感の強さを示すと信じられていたそうです。スイカズラは花色の変化の特徴や蔓(つる)の絡み合う姿から、双子、恋人、夫婦などのツガイからシンボルとしてのイメージがたくさん生まれている花のように思います。しかもその生命力の強さや絡み合う結びつきの強さから全体的にポジティブなシンボルとして考えていいかと思います。
金花と銀花、カストルとポルックスと同じように双子というのはお互いをまるで自らの半身と感じているような強い結びつきをしていることがあります。
双子についての個人的な話
ここからは余談になりますが、
私が大学生の頃、仲良くしていた後輩に双子の姉妹がいて
「双子というのはお互いをどのように感じるているものなの?」
と聞いたところ次のように言っていました。
「離れていてもいつも近くにいるように感じて、大切なことはいちばんに話すし、ときには話さなくてもなんとなくお互いの考えていることや感情が汲(く)み取れる特別な存在です」
私にも兄弟はいますが、愛情や愛着はあってもとてもそんな風には感じられず、やはり「親しい他人」という印象からは抜けられません。想像するしかありませんが、双子というのは「自身の半身」と呼べるものに一番近いのかもしれません。
スイカズラの蔓(つる)も絡み合っているとなかなか簡単には引き離すことができません。それを無理矢理に引き離そうとすれば蔓は千切れてバラバラになるでしょう。
互いの存在をかけがえのないものだと感じている双子が離れるということは、絡みついた蔓(つる)を無理やり引き剥がすときのように自分自身の存在というものが二つに引き裂かれてしまうような感覚なのかもしれませんね。
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