日本では30種が自生しているトリカブトは日本三大毒草の一つにも数えられる猛毒の植物として有名です。一方で古くから弱毒化させて神経痛や関節リウマチの鎮痛薬として重宝されたり、夏以降になると紫やピンクや白の花を咲かせることから切花やガーデニングにも使用されています。
今回はそんな恐ろしくも人々に重用されているトリカブトのシンボル性についてピックアップして見ていきます。
トリカブトの特徴
分類 | キンポウゲ科トリカブト属 |
学名 | Aconitum |
原産国 | 北半球の温帯 |
草丈 | 80-120cm |
開花時期 | 8-10月 |
花持ち | 5-7日 |
花色 | 白/紫/ピンク/黄 |
トリカブトとギリシア神話
トリカブトの誕生伝説
トリカブトの誕生にはギリシア神話に登場するヘラクレスが挑むことになった試練の数々が関係します。
英雄ヘラクレスは次々に試練を突破したあとミケーネ王エウリュステウスから最後の試練を与えられました。それは地獄の番犬ケルベロスを生きたまま連れて帰るという難題でした。
ケルベロスは冥界の王であるハデスが支配する冥府の国を守る番犬です。
その姿は3つの犬の頭を持ち、尾はヘビの形をし、背中にも無数の蛇が鎌首をもたげて顔をのぞかせているという怪物です。
ヘラクレスはハデスから武器を身にまとわず素手でケルベロスを圧倒したら一時的に地上に連れて行ってもいい、という約束をとりつけます。壮絶な激闘の末ヘラクレスはなんとかケルベロスを打ち負かしエウリュステウスのもとに連れて行けることになりました。
ケルベロスを連れて冥界から地上に出たとき、ケルベロスは太陽のあまりの明るさに驚いて吠えてしまいます。そのときに口から飛び散った唾液から人を殺す力を持ったトリカブトの花が生まれたと言われています。
魔女メディアの【謀略】に用いられたトリカブト
コルキス王の娘メディアは魔術を得意とし、薬草の知識に長けていました。メディアはイオルコスの王子イアソンに恋をしたことがきっかけで祖国を脱出することになります。
イアソンはメディアと共に母国イオルコスへ戻ります。イアソンに王位を渡そうとしないイアソンの叔父をメディアは薬草の知識を生かして若返りの薬をエサに謀殺してしまいます。しかしたちまち民衆にこのことは露見しイアソンとメディアは国を追われることとなります。
イアソンの祖国を追われた2人は南の国へと流れ着きます。この国の王に気に入られたイアソンは王の娘との結婚を持ちかけられます。これを許せるはずもないメディアは毒草を染み込ませた服を王女にプレゼントします。何も知らない王女は素直に服を身につけてしまい、やがて毒が回って死んでしまいます。娘の異変に助けようと駆けつけた王も娘を抱えた際に服に触れてしまうことになり、死ぬこととなりましました。これもすぐに民衆に露見しまたまた2人は国外へと逃れます。
この王女の服に染み込ませた毒はもしかしたらトリカブトが使用されたのかもしれません。というのもトリカブトは世界でも毒性が最も高い植物種の一つで、皮膚に触れただけでも幻覚を引き起こすような強力な経皮吸収作用があるからです。
イアソンと離れ離れになりアテナイへと流れ着いたメディアはアテナイの国王と結婚します。テセウスを恐れていたアテナイ王はメディアにテセウスの暗殺を命じます。その際にメディアが処方した毒薬の材料に1つにトリカブトが使用されたといわれます。結果的には毒殺は失敗しメディアはその罪を咎められまたもや国外追放されてしまいます。このエピソードからトリカブトは【謀略】が象徴されるようになります。
トリカブトのシンボルの由来
そのほかのトリカブトのシンボルとその由来となったものを簡単にご紹介します。
【毒】【死】【恐怖】
人を死にいたらしめる有毒植物であることが由来となっています。
【空飛ぶ薬】
民間伝承の中で『魔女の軟膏』というものが作られたという伝説があります。そのレシピにはヨウシュトリカブト、ベラドンナ、チョウセンアサガオ、ケシ、ヒヨスと毒草ばかりが用いられたそうです。『魔女の軟膏』を塗ると強い幻覚作用を起こし手足が麻痺するため、まるで空を飛んでいるような感覚になったといわれます。
【警告】
毒性の強さから矢の毒にトリカブトは用いられました。ただこの毒は西欧では相手を殺すためだけではなく痛みを与えて警告する目的もあったそうです。
【勝利】
トリカブトはこれまで紹介したような暗いシンボルばかりではありません。日本でも花の形から「鳥兜」という和名がついたように西欧でも花の形からシンボルが生まれています。西欧ではトリカブトの花姿が兜を思わせることから古代の北欧の神々に喩えました。そこからトリカブトは戦争への【勝利】のシンボルとして結び付けられます。例えば「最高神オーディーンの兜」「勝利の神テュールの兜」といったようにトリカブトは喩えられています。
最後に
トリカブトは花の形や毒性から多様な用途で使用されており、その影響からかシンボルとしての用いられ方も多岐にわかれていました。
今回のトリカブトのような毒草といわれる植物は危険なために遠ざける一方、どこか人を惹きつけるところがあります。そうした妖しさや蠱惑(こわく)的なところがギリシア神話のメディアの物語や特徴的なシンボル性が生まれる要因になるのかもしれませんね。
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